このリサーチと考察を実施した背景
生成AIがこれまでのテクノロジーと違う点の一つに、生成AIが最も影響をもたらす可能性のある仕事の種類がナレッジワークである、と言うことが挙げられます。私自身が生業としてきた経営・戦略コンサルティングもここに含まれており、「コンサルティングがAIでリプレイスされるのでは」という議論を国内外で目にするようになりました。
一方、生成AIはナレッジワークの効率・価値を一層向上させるものとも言われています。実際、コンサルティング会社の中には、生成AIを活用し、コンサルティング業務自体の効率やクオリティを上げようという試み、あるいは効果を検証する試みが行われています。
コンサルタントは本当にリプレイスされてしまうのか?
生成AIを活用して更なる価値を生み出すようになるのか?
それとも実は役に立たず無視していればいいのか?
こんな疑問に答え、直近、そして将来も見据え、どう生成AIと関わっていくべきかるべく、生成AIツールを使いつつリサーチと考察を行ってみました。
下記のような内容を、いくつかの記事に分けて公開していきます。
- コンサル業務の効率化・付加価値向上を目的とした生成AIの利用例の紹介と考察
- そこから見える可能性と留意点
- コンサル向けの生成AIツール
- 今回の調査分析のアプローチ整理と、それを踏まえた生成AI活用アプローチ
では本論に入ります。
コンサル業務の効率化・付加価値向上を目的とした利用例の紹介と考察(1/2)
今回はまず、ハーバード・ビジネス・スクール(以下 HBS)とボストン・コンサルティング・グループ(以下 BCG)の共同実証をご紹介します。
私が見つけた中では、実務ベースではありませんが、これが一番詳しく生成AIのコンサル業務へのインパクトを掘り下げています。
BCGの出したレポートを紹介した記事は巷にたくさんあるのですが、より詳細なHBSのレポートはあまり紹介されていないので、そちらも参考にしています。
結論をざっくりまとめるとこんな内容です。
- 生成AIにも得意・不得意がある(当たり前ではありますが...)
- 得意な領域では結構お任せでOK、且つコンサルとしての力量にかかわらず質もスピードもプラス効果があるが、元々のパフォーマンスが相対的に低めの人ほど効果が見込める
- 不得意な領域はお任せすると逆効果が出かねないが、回答をちゃんと精査してブラッシュアップするように使えば効果が見込める(アシスタントとのやり取りみたいな感じでしょうか)
- つまり、得意不得意を理解して、どんなケースではどうAIと対話すべきかを考慮して使うことが大事
- とはいえ生成AIの進化は続くので、今不得意でも近い将来得意になる可能性もある
- その他、回答の倫理的観点でのチェックなど、コンサルが担うべき役割はある
もう少し具体的に、「調査手法」「実験結果」「結果の考察」という観点で見ていきます。
(私が重要と思ったポイントですので、詳細はご関心あれば原文をご覧ください)
調査手法
被験者:BCGのコンサルタント758名を、2種類のタスクに振り分け、それぞれをさらに3グループに分けた(GPT不使用、GPT使用且つ事前トレーニングあり、GPT使用且つ事前トレーニングなし)
タスク(原文は英語で、以下は参考訳です)
いかがでしょう。コンサルの方々にとっては、採用時のケース面接が思い出されるかもしれません。
実験結果
それでは結果を見てみましょう。
なお「生成AIには留意点あり」というのは、場合によっては逆効果になるが、使い方次第ではパフォーマンス向上の可能性がある、といった内容です。
結果の考察
〜アイデア企画でのコンサルタントと生成AIの関わり〜
上記を踏まえると、アイデア企画系では顕著な効果が得られたようです。生身のコンサルとしては、少し残念なくらいかもしれません。
でも思い返すと、実際のプロジェクトはこのタスクほど単純ではありません。
言わずもがなですが、新規事業の企画でも、顧客の置かれた状況によって様々な条件がありますし、顧客との対話を通じ、顧客がうまく言語化できていないニーズを把握したり、仮説ベースで問を設定したりすることが重要です。
問は、プロンプトのベースになり、生成AIのアウトプットの質を左右します。
さらに結論を出すには、市場調査・分析なども必要です。
その意味では、コンサルが生成AIを活用しつつ価値を発揮する余地は多分にあると考えます。
〜生成AIの副次的効果〜
また、特に経験が浅い内は、生成AIは良い壁打ち相手にもなる可能性もあります。
時間が限られている先輩や上司と異なり、気を使わずにいつでも自分の考えをぶつけられるからこそ、自身の問やアイデアを検証したりする、自主トレの道具にもなり得ます。
そして、これは色んなところで既に言われていることですが、タスク遂行の速度が上がった分、顧客との対話や新規の提案、複雑な分析という、より付加価値の高いことに時間を使えるというのは、コンサル業界にもコンサルタント自身にとっても良いのではと思います。
〜問題解決(分析)でのコンサルタントと生成AIの関わり〜
問題解決(分析)系タスクの内、不得意とされた部分については、実際の財務データとインタビューデータが無いので何とも言えないところはあります。
それでも、私自身GPTを試しつつ、財務データ(エクセル)の分析は、エクセルシートの構造やデータ項目にも依存するので一手間必要なことがあり、分析が一発でうまくいかないこともあると感じているので、この実験結果に驚きはありません。
しかしレポートで、使い方によってはパフォーマンスが良かったと指摘されているように、タスクの複雑性にもよるが使い方次第では効果を出せる可能性もあります。
この使い方を、レポートでは2種類に分けています。
一つがケンタウロス型、もう一つがサイボーグ型です。
この辺りの言語感覚はおもしろいなと思うのですが、前者は上半身が人で下半身が馬、後者は全身が人と機械の融合、という、AIとの融合の仕方の違いを表しています。
ケンタウロス型は、コンサルが自分の得意な部分と、AIの強みを分けて考え、タスクの中身に応じて人がやるかAIにやらせるかを切り替えるアプローチです。
サイボーグ型は、タスク全体でAIを使用しつつ、有益な回答を引き出すためにAIに修正指示や追加インプット等をおこなっていくアプローチです。
〜まとめ〜
これを踏まえると、アイデア企画系でも、問題解決(分析)系のタスクだとなおさら、仮説立案・検証やデータ分析の知見があるからこそ、生成AIを効果的に用いつつ、顧客の目的達成に合ったアウトプットを出せると考えています。
一方生成AIは進化し続けているため、レポートでも言われているように、今の不得意分野は将来得意分野になっている可能性があります。
それでも、少なくとも現時点で私が自信を持って言えるのは、巷ではコンサル不要論みたいなことも言われていますが、コンサルタントが活用するからこそ価値が出る部分が大いにある、ということです。
次回は、HBSとBCGによる実証実験以外の、海外のコンサルティングファームや国内の個人コンサルタントの事例を参考に、コンサルタントにとっての生成AIの利用例を整理していきたいと思います。