以前の記事「生成AIはコンサルタントの脅威 or 味方 or どちらでもない? ~大手戦略ファームによる実証実験~」に続き、今回は経営・戦略コンサルタントによる生成AIツールの利用例をまとめてみました。
利用例は、大手の外資戦略ファームおよびその他海外のファームを中心に情報が出されています。加えて、国内の個人コンサルタントの方々から教えていただいたこともあります。
なおここではコンサルが自身の業務の効率・価値向上のために紹介している利用例を対象にしており、顧客の生成AI導入支援(いわゆる生成AIコンサルティング)は除外しています。
また、特定の利用例などに関するご質問や深掘りのご要望がありましたら、こちらのお問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。
コンサルタントの業務プロセス・種類ごとの利用例
利用企業・利用者別の事例は少し長いため追って紹介することにし、先に、利用例をコンサルタントの業務プロセス・種類に応じて大まかに分類した図を掲載します。
これはプロジェクト開始後のプロセスをイメージしていますが、その前後の提案フェーズでも、クライアントとの継続的コミュニケーションでも同様です。
なお、私がGPTを利用した肌感では、この中でも現在の生成AIが得意な部分と不得意な部分があります。そのため実際はそれを踏まえて活用すべきですが、長くなるので別の記事で触れたいと思います。
そして生成AIツール利用の副次的効果として、より高付加価値な活動を行う時間が増えたと言われています。
例えば、課題分析や戦略の練度を一層向上させたり、顧客とのコミュニケーションやコラボレーションを増加させたり、といった内容です。
利用企業・利用者別の利用例
では次に、利用企業・利用者別の事例紹介です。それぞれのタイトルに参照サイトURLが貼り付けてあります。
これ既に広く知られている話ですが、同社ではLiliという生成AIアプリケーションを内製し活用しているそうです。2023年6月に出された記事では、50%近くの社員がChatGPTを含む生成AI技術を同社のガイドラインに従って利用しているとも言われています。
ではどのようなユースケースが紹介されているのか見てみましょう。
- アナロジーや比較対象の探索(例えば、ある条件に合う製品サービスの探索など)
- 新たな視点の獲得
- 会議やプレゼン準備(例えば、議論の穴の特定など)→準備時間20%減
- 新しい領域の学習
- プロジェクト開始時の社内文書と専門家特定(Liliに質問を入力すると、同社内部データまたは外部データから、関連性の高いコンテンツを特定し回答を生成)
なお副次効果として、より多くの時間をクライアントの問題解決や提案の具現化支援、コーチングなどに注ぐことができるようになったとのことです。原文にはもっと詳しく、Liliを使ったコンサルタントの声も載っていますのでぜひご覧ください。
日本法人において、ESGの文脈での活用事例が記事で紹介されています。昨今ニーズが高まっているものの、従来は労働集約的なクライアントのTCFD開示支援での活用例です。
- 有価証券報告書などの調査(特定のデータ収集)や比較分析
- それに基づくTCFD開示内容のドラフト作成
- 特定の製品・生産品の、気候変動に関するリスクや機会を調査
- 特定の業界での開示内容の特徴を抽出、他業界と比較し、開示内容の改善点を見出す
また副次効果として、コンサルタントは、気候変動戦略の質向上とTCFD開示の実現に向け、クライアントと協働する時間を増やせるとのことです。
これは同社のインド法人Technology Consulting Partnerの方が、コンサル業務全般で効率化したり、提案をデータドリブンにして価値を高めるための活用方法を紹介している例です。端的に紹介していきます。
- アイデア生成
- シナリオのドラフト・改善
- 問題解決のためのソリューションの評価
- コラボレーション促進のための知識共有
- データ分析や市場調査に基づきよりデータドリブンな提案を実現
副次効果としては、戦略的思考や創造的な問題解決などのより価値が高い活動に注力できるということが挙げられています。
今年2023年の夏、同社の米国本社はAIに30億ドルの投資を行うと発表しました。その一環かは把握していませんが、独自の生成AIアプリケーションを作ったようです。その名もBrain Buddy。紹介動画では一例として、議論を整理し、それ以外の情報とも掛け合わせて企画を行うケースが挙げられています。
- 議論の音声データからのポイント抽出
- 議論の内容に加え、議論では触れられていなかったが関連のあるトピックなども自動検知、参考にして追加発案
これは私の観点ですが、動画をみると、議論のテーマや戦略の専門家が使うことで、AIのアウトプットがより建設的に活用されるということも感じられます。
アクセンチュアのサプライチェーン分析領域のプリンシパル・ディレクターとデータサイエンス領域のプリンシパル・ディレクターの2名が、2ヶ月間入念なテストを行い、ビジネスコンサルタントがデリバリーの速度と品質を上げるための、9つのユースケースを特定したとのことです。
- コンテンツ開発・品質の改善(メッセージラインのパンチ力強化など)
- ブレインストーミング
- ナラティブの改善(個別クライアント向けに独自性を持たせるなど)
- 業界/製品リサーチ
- ビジネス要件のドラフト作成(ドラフトのチェックは必要だが、それでも60〜70%効率化)
- クライアントミーティングの準備(資料チェックや模擬Q&A)
- 議事メモ等の整理
- コーディングサポート
- ドキュメンテーション(プロセス文書や議題作成など)
イギリスのコンサルティング会社で、コンサルティング会社向けに生成AIの活用方法をアドバイスしている記事があります。
- 文書の編集、ワーディングの修正など、クライアントへの成果物を改善するアシスタントツールとしての利用全般
この記事では、具体的なユースケースよりも、コンサルタントとして生成AIを活用する際の留意点が中心にまとめられています。これは別の回にまとめて紹介します。
カナダのコンサルティング会社で、こちらもコンサル会社での利用例を紹介しています。
- マーケティングコンテンツの開発
- マーケティングおよびブランド開発キャンペーンの設計と実施
- RFPの改善
- プロポーザルのドラフト
- 文献レビュー
- 会議の議事録の要約
- アンケートのドラフト
- アンケート、インタビュー、グループセッションの結果の要約と分析
- 文書の校正および翻訳
- 各種メディアの制作
意味がいまいち不明だった利用例は省いています。なおQatalyst社も生成AIを使いこなすための留意点を紹介しており、別の回にまとめます。
スペインのコンサルティング会社で、ディープテックスタートアップの資金調達やデューデリジェンスを支援しています。生成AIもその文脈で紹介されています。
- 資金調達やデューデリジェンスに関するリサーチと分析活動の効率化
詳しくは述べられていませんが、デューデリジェンスは大量の情報を読み込むことにアナリストが時間をかけているので、そのプロセスを生成AIで効率化しようという試みは他でもあります。実際それに特化したツールも現れていますが、これは別の機会に紹介します。
個人の経営・戦略コンサルタント
私がヒアリングしたところ、下記のようなユースケースを伺いました。
- デスクトップリサーチ(業界や、海外市場、技術の基礎知識・トレンド情報の発掘など)
- 情報を大量に読み込ませて要約(日本語以外も。その他難解な専門的文書も)
- 企画・発案、ブレインストーミング(読み込んだ情報も活用)
- 文書の構成・内容のドラフト
- 仮説立案
- メッセージラインの改善
- 戦略フレームワークを用いた案出しと高速壁打ち
- 文書・提案内容の反論余地チェック
- メールのドラフト
個人コンサルタントだと特に、必ずしも有能なアシスタントが常時いるとは限らないため、生成AIは使いこなせればかなり重宝する感覚を持っています。
今後は、この記事では紹介しきれなかった観点として、下記のような内容に触れていく予定です。
- コンサルタントが生成AIを利用する上での留意点は何か?どうすれば生成AIを使いこなし、誤用を防ぎつつ、業務を効率化しつつ獲得案件を増やしたり提案の価値を高めたりできるのか?
- それぞれの業務で使えそうな、具体的なアプリケーションは?