AIはコンサルタントの 脅威か味方か?

 

~悪い戦略を回避し、良い戦略を立てるために~

戦略を生業とする戦略コンサルティングファームから「A giant in the field of strategy」(戦略界の巨人/戦略の大家)と呼ばれる人がいます。そのリチャード・ルメルト氏の有名な著書「良い戦略、悪い戦略」を読みつつ、
悪い戦略を回避し良い戦略を立てるために、

  • 生成AIとの比較で生身のコンサルタントが価値を出すべき部分はどこか?
  • そのために生成AIを役立てることはできるのか?出来るとしたらどう役立つのか?

を考えてみました。

先に大枠の話をすると、これを考えるには、生成AIと人間(コンサルというより人全般)、それぞれの得意なことと制約を理解する必要があります。

生成AIの得意なことの代表例として、大量のデータを集め処理して何かを生み出すことが挙げられます。
逆に制約としては、AIが何か生み出すには人による問(プロンプト)が必要で、逆にそれがないと何も始まらず、人が問をやめたらそれまで、ということがあります。もちろん、特定のアクションをトリガーに、都度プロンプトを入れなくても自動的に何らかの処理を実行させることは出来ますが、まだ人間程の柔軟性はありません。
また、生成AIは自然な文章を書いてくれますが、本当に意味を理解しているわけではありません

一方で人間は、問を立てたり、言語化されていない情報も読み取ったり、相手の機微な反応など感情にも配慮しながらコミュにケーションしたり出来る、といったことがAIとの比較では顕著です。
逆に制約としては、一定時間内での情報処理量の限界思考のバイアスが生じる可能性があります。

ではこれらを踏まえ、悪い戦略を回避し良い戦略を立てるために、ルメルト氏の指摘ポイントから
「重大な問題に取り組む」
「戦略は仮説であり、検証しブラッシュアップし続けるもの」
という点について、生成AIとの比較で生身のコンサルタントが価値を出すべき部分はどこか?、そのために生成AIを役立てることはできるのか?出来るとしたらどう役立つのか?、を考えていきます。

重大な問題に取り組む

ルメルト氏は、「悪い戦略」のひとつの特徴として、「重大な問題に取り組まない」ことを指摘しています。これがダメなのは言うまでもないことに聞こえるかもしれませんが、それでも重大な問題が十分に追求されなかったり見落とされてしまったりする理由として、例えば以下のようなことが考えられます。

  • 重大な問題を特定するための作業は大量のデータの収集や分析が伴い多大な労力が掛かる
  • 時には自らの過去の意思決定や行動を否定することにも繋がり、苦痛を伴う
  • 人は見ようとしたものしか見えないため、問題を追求する範囲や角度がバイアスにより制限されてしまう
  • 時間的な制約の中で問題を追求するにはそもそも限界がある
    (最後の2点はルメルト氏の指摘には無かったかもしれませんが私の経験上追加しました)

では重大な問題の特定のために、生成AIを役立てる余地はあるのか?
生成AIを活用することで、まず時間的制約の中でも、より広範囲に大量のデータを収集し多角的に分析できるようになると期待できます。これは以前の記事で紹介した既存のコンサルティングファームによる事例にも通じます。
また、プロンプトで調査や分析の範囲を制限しすぎなければ、人間のバイアスに捉われない調査や分析の手助けにもなります。

一方、現時点では、生成AIのアウトプットは人間による問(プロンプト)が起点になりますので、どこまで深く追求するかは人次第です。例えばその仮定で目を逸らしたいような、苦痛を伴う発見があったとしても、問題を追求していくには人の力が必要です。人が問うことをやめても、AIが「いやいやまだ本質に行きついてないかもしれないからもっと深堀りましょうよ!」と言ってくれるなら別かもしれませんが、現状そうはなりません。

また、問題の発見では、当事者である企業自身が言語化できていない、データ化できていないことがヒントになる可能性もあります。例えば、明文化されていない組織のしがらみだったり、人間関係など、組織の中に入って面と向かって対話をしたり、組織内外の人からヒアリングしたりしながら、データ化・言語化できていない情報も捕捉して問題を探る。そうしたことは、人の領域なのだと思います。
いずれ、テキストだけでなく、映像や音声データなども、色々なところで常時・自動的に収集・解析されるようになったら話は変わるかもしれませんが、それはちょっと気持ち悪い気もします。

そしてもうひとつ、問題を見つけることと、それを重大な問題と理解することは別です。それが組織内の利害に関わったり、反感を買いそうな厄介な問題ほど、目を逸らされてしまったり、もっと楽な方法がないか考えてしまうとルメルト氏は指摘します。そんな時、AIは、ユーザーがその問題を無視することに決めても何も言いません。人であれば、(生身のコンサルでもクライアントがNoと言ったら限界はありますが)解決に取り組むべき重大な問題であることを理解してもらうために、今取り組まないリスクなどについて、相手方の感情にも配慮しながらコミュニケーションすることなどは可能です。

戦略は仮説であり、検証しブラッシュアップし続けるもの

「良い戦略、悪い戦略」では、良い戦略の構築アプローチとして「問題の診断〜それを踏まえた基本方針〜その方針を実行するための一貫した行動計画」が挙げられています。

現時点では、AIは人間のように言葉の意味を理解してアウトプットを出しているわけではないので、例えば戦略と言いつつ方針で終わっていないかや、行動計画は問題および方針と一貫しているか、実行可能であるかなどを評価し最終判断を下すには、それを出来る人の目が必要です。

そうして立てた戦略も、ルメルト氏が指摘するように、実行と結果が出る前段階においてはまだ「仮説」の域を出ません。つまり検証して磨き続けることが重要になります。
その過程では、「本当にこれで良いのか?」などと、コストをかけて導いた答えにも疑問を抱いたり、時には方向修正を検討したり、特に戦略のオーナーである企業自身にとってはストレスのかかる分析や決断を伴う場合があるかもしれません。
そんな時、AIだと人が問うのをやめたらそこで終わりですが、コンサルタントなら、戦略の実行をクライアントより客観的に観察し、これで良いのか問い続けながら、必要な検証とブラッシュアップを支援できるはずです。

さらにこうした意識を持ちつつ生成AIを使えば、検証用データの整理や相関関係の検知などを通じて、戦略の検証を漏れなく効率的に行うことも可能です。

なお、AIが予め社内の多種多様なデータを常時・自動的に収集し続けて、戦略に影響がある動きを自動検知し柔軟に評価・報告できるようになれば、生成AI自ら検証を進められるかもしれませんが、その見通しはまだ立っていないのが現実かと思います。

 まとめ

冒頭に述べた通り、生成AIは大量のデータを集め処理して何かを生み出すことが得意である一方、AIが何か生み出すには人による問(プロンプト)が必要で、逆にそれがないと何も始まらず、人が問をやめたらそれまで、という制約があります。

それに対し生身のコンサルタントは、自ら問を立て、データ化・言語化されていない情報もとりつつ本質的な課題を特定し、それを解決する戦略を描き、さらにその検証とブラッシュアップなど先手を打ちつつ成長を支援していくことが出来ます。
その過程では、クライアントにとって目を背けたい事実や選択肢に焦点を当て、コミュニケーションしていくことも、生身のコンサルタントだからこそ出来ることです。

「悪い戦略」を回避し「良い戦略」を立て、それを実行・検証しながら「良い戦略」を磨き続けていくには、生身のコンサルタントだからこそ価値を発揮できる余地は十分にありますし、その過程で生成AIの強みを理解し活用することで、時間制約や人間のバイアスという制約などを取り払い、さらなる価値を提供できるようになるのではないでしょうか。

当社では引き続き生成AIの発展を観察しつつ、企業の課題分析や戦略立案、およびコンサルタントへのインパクトを今後も考え続けていきます。